2024年、日本の出生数は約68万6千人となり、統計が始まって以来もっとも少ない数を記録しました。前年の72万7千人からおよそ4万1千人減少し、合計特殊出生率も1.15にまで下がりました。
この出生数の減少ペースは予想よりも早く、国立社会保障・人口問題研究所の予測よりも15年ほど前倒しで少子化が進んでいる状況です。今のままでは、これまでの政策では対応が追いつかない可能性が高く、早急な見直しが求められています。
主な要因は「晩婚化」と「非婚化」
コロナ前から結婚する人の数は減っており、その傾向はコロナ後も続いています。2024年の婚姻数は約49万件で、前年より2.2%ほど増えたものの、依然として低い水準です。
特に、コロナ以降は人と出会う機会そのものが減り、マッチングアプリや結婚相談所などの重要性がこれまで以上に高まっています。
不妊治療の広がりと出生数への影響
ここで注目したいのが、不妊治療、特に「体外受精(IVF)」によって生まれた赤ちゃんの数です。実はこの数が、今の日本の出生数を大きく支える存在になっています。
● IVFによる出生の割合が増加
2022年には、体外受精で生まれた赤ちゃんは約7万7,200人となり、全体の約10%を占めました。
2024年は出生数が約69万人と見られており、IVFで生まれる子どもはさらに増える見込みです。おそらく全体の11〜12%(約8万人)ほどになると考えられています。
IVFが増えている背景
最も大きな理由は、2022年から体外受精が保険適用となったことです。それにより、費用の負担がぐっと軽くなりました。
ただし、実際の現場では、保険の対象年齢を過ぎた方や、すでに適用回数を使い切ってしまった方も多く見られます。そうした方たちの声を聞くと、「もっと助成金を増やしてほしい」と感じている方が多いです。
不妊治療が出生数の減少を食い止めている
① 出生数を支える「最後の砦」
現在、体外受精によって生まれる子どもは全体の1割以上です。もし不妊治療がなければ、出生数は60万人台後半どころか、60万人前半にまで落ち込んでいた可能性もあります。
それほどまでに、不妊治療は今の日本の人口を支える「重要な柱」になっているのです。
② 少子化のスピードを緩やかにする
IVFでの出生が増えることで、全体の出生率の急落を少しでも抑えることができます。実際、現在の自然減(出生数より死亡数が多い状態)は約91.9万人と非常に大きく、このままでは日本の社会そのものが成り立たなくなる危機感があります。
③ 社会の考え方を変えるきっかけにも
体外受精が「特別な医療」ではなく「一般的な選択肢」として社会に広がることで、不妊治療に対する偏見やためらいが減っていきます。
また、妊娠前の健康管理(プレコンセプションケア)や卵子の老化に対する理解も深まり、もっと前向きに治療に取り組めるようになると考えられます。
不妊治療の可能性をさらに広げるためには
不妊治療は確実に効果を上げていますが、その力を最大限に引き出すには、次のような取り組みが必要です。
1. 情報と理解の広がり
公的な機関や医療機関が、正確な情報を提供し、気軽に相談できる窓口を整えることが大切です。アンケート調査では、不妊治療や妊活の経験がある人はまだ約30%にとどまっており、正しい知識が十分に行き渡っていないのが現状です。
2. 経済的な支援の強化
治療費はまだまだ大きな負担です。保険だけでなく、自治体による助成金や、収入に応じた支援の見直しなど、より柔軟な制度づくりが求められます。
3. 社会全体の意識の変化
不妊治療だけで出生数を回復させることは難しく、社会全体の考え方の変化も必要です。
たとえば、育児支援や育休制度などが整ってきても、必ずしも出生数は増えていません。むしろ、男女平等や女性の社会進出が進んだことで、「子どもを産むこと」や「女性が家事や育児を担うこと」が避けられる傾向も出てきています。
もちろん、女性の自立や権利はとても大切です。ただ、性差に基づく役割というものにも、一定の意味があるのではないかと感じます。
子どもを望む人すべてに希望を届けるために
子どもを産み育てるというのは、経済的な理由だけではなく、人間としての本能や、社会・国の未来をつなぐ大切な営みでもあります。
そう考えると、不妊治療はただ出生数を「補う」ものではなく、子どもを望む人たちの未来を支える、希望の手段だと言えるのではないでしょうか。